ヤクシマ三丁目

オリジナル小説を公開しています。声劇台本の告知、小説化なんかも。同人誌にしてコミティアとか、二次創作でコミケに出たり。

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- 瞬の出発点 - 火の緋色 03

 思わず「はぁ、そんなもん、かねぇ」なんて気の抜けた返事をしてしまった。
「いいかい? 人は死ぬ瞬間までに理由付けするんだ」
「死ぬ瞬間までに?」
「そう、死ぬ瞬間までに。理由付けっていうのはね、普通の人間ならおこなっていることさ。ほら、人は死ぬまでに老いていくだろう? それまでにね、自分が死んでしまうことを、どうにか理由付けるんだ」
「ん? 今の話、連結してなかったような。老いていくのと、死んでしまう自分の理由付けって、どうリンクするんだ?」
「どうして人は老いると視界が狭まり、耳が遠くなり、感覚が鈍くなるのか。人の未練になりやすいのさ、五感は。美しい世界にとどまれなくなる自分、そんな現実を認識したくないから、精神ではなく体がまず準備をするのさ。美しい風景を、焦点をぼかしてしまうことにより、心地よい子守歌を、膜が張ったように、人とのふれ合いを、暖かさを共有できなくさせて。そうして徐々に五感が、世界の美しさが失われていき、残るのは美しい、しかし二度とやってこない若い頃の記憶――それを見続けると、人はいつしか今の自分に喜怒哀楽の感情を抱き摩耗させ、人生から全てをそぎ落とし生への執着を露出させる」
「その、最後の砦みたいな生への執着は、露出することでどうなんだ?」
「美しかった世界、美しかった記憶。そういった物と比較していまい、その醜さに気づく」
「そして時を置かずして、その醜い物を、捨ててしまう、のかい?」
「リンクしたかい?」
「……リンクしたけれど、まぁ、なんというか、随分リンクさせる情報が隠されてたなとは、思う」
 そんな言葉に、河図島は小さく同意の言葉を吐いてから、苦笑した。





「とにかくさ、長い時間が必要なんだよ、人が死んでしまおうと考えるにはね」
 話し終えて喉の渇きを思い出したのか、河図島はアイスをひとすくい口へと運ぶ。
「でもさ、人が死んでしまうプロセスの中には、大往生以外が沢山あるぜ」
 一年で何人が自殺するのだろうか。一年で何人が交通事故にて死ぬのだろうか。
 他にも、人の手による犯罪から天災まで……多岐にわたり、その死は平等に、それ以降の人生を紡ぎ取っている。
「ごめん、僕が話を反らしてしまったね。今回のケースに当てはめて考えなきゃいけないんだ、今の話を」
「死ぬまでに長い時間が必要ってやつか? 今まさに決めた自殺を、直ぐに実行できるかってことか?」
「そっ。それは、人間が死ぬ際のプロセスから逸脱している。長い時間が必要なんだ」
 河図島は繰り返す。その長い時間が、とても重要だと言い聞かせるように。
「でも、そいつが本当に、ビデオに映っていた瞬間に自殺を考えたか、判ったもんじゃないぜ? もっと前から考えていた。それに相応しいだけの状況が揃っていた。そして、それは俺たちには判らない」
「でも、彼は新聞を読んでいたらしい。新聞は現在の情報を集約した読み物だ。もう先が無くなってしまった人からしたら不要、読む必要がない」
「読んでいたのはフェイク、とか? 普段通りの態度で居ることにしておけば、周りからは不審人物とは思われない」
「新聞を目の前に広げてたら、周りが見えなくなっちゃうよ。自殺を決めていたのだとしたら、彼が一番気になるのは、朝霧の向こう側からやってくる、電車の姿だ」
「むー」
 河図島と俺の情報が交錯する。どちらもありそうで、どちらも相手の意見を却下できない。
 止まってしまう話。
 ふっと、
「あれ、お前が部屋まで上がってくるの、久しぶりだな」
「えっ?」
「へっ?」
 止まる話。
 いやまて、なんだ今のセリフは今俺はなんて言った!!
「唐突……というか、そういうセリフ、初めてだね」
「あ、あー、似合わないセリフなんぞはいちまった、かなぁ、ハハハハハッ!」
 なんださっきのセリフ、もしかして思ってたことが口から出てった? いやまて、なんでそのセリフがよりにもよってあれなんだよ。感慨深げに分析して発言するような事じゃなかったし!
「別にそうは思わないけれど――えと、そうそう、それでね」
 それでねときたか。あっいやいや、蒸し返されても困るから、これで良いんじゃないかな。……寂しい気はするが。
「それで? ここで話しても埒があかない話なんだから、少しは話題を変えようじゃないか。夏休みなんだし、折角」
「うん、だから、夏休みに関係ある話。来たとき、藤花が朝の当番変わって欲しいって、伝言したじゃない?」
「清掃当番な。夏休み前に突然変わってくれと言って、今日も突然変わってくれと言われて、二度だぜ、二度。なんなんだよ、あのブン屋はさ。結局、あいつはいつやるんだよ」
「それはいつかやるだろうけれど……その清掃当番なんだけどさ、僕も明日やることになっててね」
「ハッ?」
「んで、場所がここから五百メートルも歩いた駅……ねっ? これって、現場を見に行けって事だと思うよ」
「――うわぁ、なんだこりゃ。えっ、あいつの策略とかじゃなく?」
「藤花にはその気は無いと思うよ。現場第一主義だからね、自分が行かないでなんとする、っていう子だから」
「知ってる」
 楽しくていいじゃないかなんて、話を切ってアイスを食べる事に集中しだした河図島が話す。
 面倒なことになった。
 現場を見に行く? しかも、地域一帯のブン屋、筒木島藤花が、わざわざ事件の現場に行かないだって?
「また、こっち側の話ってことかよ……さっきまで科学的な生死学を語っていたのはなんだったんだ」
「雰囲気、じゃないかな。非科学的な何かって事だと思うよ」
 だからそれは。河図島は前置きしてから、
「彼女ではなく、君じゃないとどうにもならない、ってことなんだよ」
 頭を垂れる理由になりえる事実を突きつけた。

 02
 04

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-開始- 火の緋色 02 

 一人、二階にある自室に篭もっていると、家にチャイムの音が鳴り響いた。
 今日は、夕方まで私以外に家人はいない。一階まで降りてドアを開けると、そこに河図島が立っていた。
「やっ、こんにちは」
 随分と軽い挨拶だなと思う。まさかの来襲を果たした人物の第一声とは、到底思えなかった。
「今日さ、あんまりにも暑いからってアイスと飲み物を買ったんだけど、よく考えたら買い過ぎちゃってて。通り道だったし、お裾分けと、避暑に」
 はい、これ、といってスーパーの袋を渡される。中を見てみると、確かにアイスやらジュースがごちゃっと詰まっていた。
「とりあえず、冷蔵庫と冷凍庫に入れちゃおう。食べる分は、その時により分けておこうね」
 来客用のスリッパを履いて、私の手から袋を取ると、家の奥へと進んでいく。
 なんというか、家人なのに主導権を取られてしまって、何も言うことがない。
 ふてぶてしいと言えば良いのだろうか。でも、それは違う気がする。
「そうだ、明日の早朝清掃なんだけど、藤花が変わってくれないか、だって。多分、夕方までには連絡があると思うよ」
「はぁ? あいつ、今日じゃないと予定が空いてないんです、とか言って、私と無理矢理に変わったくせに」
「なんでもさ、先輩に協力したお礼ってのがあるらしいよ。なんて言ってたかな、イセまで行ってくるとか、だったかな」
「イセ!? あいつ、なんだってそんな高級避暑地に行けるんだよ」
「だから、多分だけど先輩って人が別荘を持ってる人とか……藤花の人脈だったら、ありえなくはないよ」
 スーパーの袋から、品物を全てテーブルに広げていく。
 アイスとジュースがそれぞれ五個以上あるだろうか。確かに、三人家族のこいつにしては買いすぎだ。
 なんというか、深読みするのは、この状況だったら悪くないよな。
「どれ食べる? それとも、飲み物にしておく?」
「折角だし、アイス貰うよ。こいつがいい」
 唯一のチョコバーに手を伸ばすと、やっぱりねという顔をした河図島が、カップのバニラアイスを端に避けているところだった。
 嫌だなぁ、まだ知り合って三ヶ月も経ってない、こいつには全部判られてる気がする。
「これでよし……どこで食べようか」
「部屋、上がっていきな。冷房かけてるからさ、過ごしやすいぜ」
 河図島は一つうなずいて、食器棚からスプーンを一つ取る。そこまで把握されてるとは。


 河図島と逢ったのは、四月の入学式だったか。
 私が唯一、正確に読めなかった名字をしている奴、というだけだったが、確かにそこから接点が出来上がった。
 以来、朝の登校も途中からは一緒だ。昼食も中庭で一緒に食べる事が多い。帰りも、二人して部活に参加していないせいで、一緒になることが多かった。
 別に河図島に何か特別がある訳じゃない。遠くから見ているだけなら、平凡な奴としか映らないだろう。
 でも、少しでも近づいてみれば判る。この、こいつが持っている年齢に相応しくないやわらかさ、のような物は、代え難い。そう、思うようになっていた。
「それで、藤花の奴が、言ったわけだよ、そんな物は要りません! って……どうかした?」
「へっ? あっ、いやいや、なんでもない」
 相づちを打たなくなった私に気づいて、河図島がこちらの表情を窺うように、下からのぞき込んでいる。
 イスに座っている私と、足を崩して床にクッションを引いて座っている河図島の高低差を考えれば仕方ないのだが、いや、しかしその表情は――
「なっ、なぁ! この間の駅の事件、覚えてるか」
 強引に話を切り替えてみる。普通なら不自然な行為も、しかし、河図島は気づいていようがいまいが、自然な佇まいで話を切り替えていく。
「駅の事件って、自殺者が出たって奴かい?」
「そうそう、その事件のことだ」

 珍しく、この街で老衰や病死以外の死者が出てしまった。
 不幸にも、我が町に止まることは金輪際無いだろう快速特急に、飛び込んでしまった者がいたのだ。
 七月の末日、人が大勢乗っている午前中のラッシュ時に起きた事件は、二時間の運行休止という事態を引き起こしたため、地方紙の一面を飾ることになってしまった。
 だからどうという事はなく、自殺という事で片付いたこの話は、膨らみようがない。事件でないのなら、後はお悔やみ申し上げるだけなのだ。
 話の反らし先としては、まことに失策。失敗したなぁ、なんて思っていると、しかし河図島は表情をやや堅くする。
「もしかして、藤花の奴が言い触らしてる噂のことかい?」
「噂? ……あっ、あぁあぁ、そうだぜそれそれ!」
 ウソだ。まったく判っていない。
「それなら、確かに不思議ではあるけれど、状況が自殺以外に考えられないって事で、一応の話は済んでるんだ」
 だから、河図島の話す事は、全てにおいて新鮮さがあり、また、不可解さもよく分かった。

「実はね、藤花が言うにはホームの監視ビデオがあって、それに事件当時の映像が残っていたらしいんだ」
 駅という不特定多数が集まる場所故に避けられないやっかいごと。正しく判断するために、鉄道会社も必死なんだろう。
 その中の一つとしてホームの監視カメラがあるが、そこに、今まさに飛び出そうとしている自殺者の姿が、
「至って普通の風景で、不自然な箇所が一つとしてないんだ。自殺してしまったと思われる彼はね、電車が来る直前まで、新聞を読んで待っていたんだ」
「別に不思議じゃない。新聞読んで待ってる奴なんて、ごまんといるだろう」
「いや、今回のケースには当てはまらないんだよ。だって、彼はこれから自殺しようと、通過する電車の前へ一歩を踏み出そうという直前にいるんだよ?」
 だとしたら、彼の本当の動きは、
「普通、電車が来ているか気にしたり、落ち着かなくてフラフラと歩いたりするものらしいんだよ。これから自分の世界を消してしまおうという未知の体験へと躍り出るわけだから、緊張したりして、落ち着かない様子になるのが自然だと、思う」
「でもそいつは、直前まで新聞を読んでいた? 歩き回ったり、キョロキョロ辺りを見渡したりもせず?」
「うん。もしかしたら、自殺するんだという緊張から堅くなっているだけなのかもしれないけれど、それにしては、落ち着きすぎてると、思った」
 そいつは確かにおかしい話だ。もしかしたら、私たちの方が「直前の人間の行動は、こうである」と枠にはめているだけなのかもしれないが。
「しかし、随分珍しいね」
「ん? 何がだい?」
「君は動機を気にするタイプだろう? それがまぁ、どうして別場所に興味を示したのかなってね」
 良くある話だ。テレビをつけてみればいい、機械の箱から出てくる光の情報は、誰もが動機を気にしているということを如実に語っていた。
 目の前のホームズも、結構それに近い方向から、世の中を眺めている気がする。
「かもね。実行直前の心理を気にしているのは、うん、いつもの僕からしたらおかしいのかも」
「だろう? お前は、発端、最初、根っこの部分が気になる奴だったのにさ」
「うん、だから、ね。あのビデオに映っているだろう瞬間が、始まりだったとは思わない?」
「はい?」
 どういう事だ? 自殺した奴の、そういう行為にでる動機が、自殺の直前だったって?
「たとえば、だよ。彼、直前まで死ぬ気なんか……ホームから足を踏み外した瞬間でさえも、死ぬ気はなかったかもしれないよ」


 01
 03


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-二人の会話- 火の緋色 01 

  限りなく消えてしまえと願ったのに、目の前では河図島が変わらずほほえんでたたずんでいた。
「どうして?」
 聞こえてきた音が、何か判別できない。
「どうして?」
 河図島にはその音が聞こえないのだろうか。変わらない、変わらずにたたずんでいる。
「どうしてなの?」
 三度の音にも反応しない河図島は、やはり変わらずほほえんでいて、
「やめて! そうやって、私の言葉を無価値にしないで!」
 音が代弁する。なんの音だろうか、私には判らないかもしれない。
「いつもほほえんでたたずんで……私の側で! その、変わらない態度が、私は――」
 代弁の音。でも、駄目。その続きを言ってしまっては。私は、このままでも、別に良いのに。
「――嫌いだった!」
 ほら、私の心のうちが、ほどけ、届いてしまう。
「……そう、だったんだ」
 届いた。変わらなかった河図島が、ついに言葉を紡ぐ。
「僕は、これが普通だったから。変わらないとか、無価値にしているなんて、思ってもみなかった」
 変わらない。言葉が発せられている以外、変わらない河図島。
「私の一方的な感じ方だから、別に、悪くない……悪くないけれど、嫌なの!」
「そう、だったんだ」
「そうなの、嫌なの!」
「そっか、そっかそっか」
「だから――だからぁ!」
「だから、僕が、嫌い、か」
「そう、それよ、それ! 嫌、嫌嫌、嫌だった!」
「ごめんね?」
「どうして、謝る……」
「んー、あんまり判らないや。ほら、いつも言ってるだろう? 僕は、思ったままに行動してるって」
 良く聞く台詞。河図島は、あるがままに、ただそれだけで生きる。
「だから、ごめんね? って聞くのは、聞くべきだって僕が思って、ただ実行しただけ」
「こうして変わらず笑って立っているだけの僕も、僕が選択した僕でしかないし」
「ここに立って、トキの声を聞いているのも僕の選択だし」
「多分、ハンカチで涙をぬぐってあげたいと思っているのも、僕だ」
 言い切ってから、
「ほんとうにさ、自分勝手だよね?」
 だから、どうして、
「どうして、聞くのよぉー」
「主体性が無いのかな? ――あぁ、待って待って、また泣かれちゃったら、ハンカチ足らなくなるよ」
 気づけば側にいた河図島に、涙をぬぐわれている。
 泣いていたのか。気づきもしなかった。
 どうしてこうまで追い詰められてしまったんだろうか。ただ、話すことがあった、でも、こんな話をしたかった訳じゃなかった。
 なのに気づけば、泣いて、思っていたことを口にして、涙拭われて。
「意味わかんない、どうしてこうなったのか――」
「そうだね。でも、良かった」
「何がよ」
「んー、そうだねー」
 いつもと変わらない。ほほえんでいて、近くに立っていて。でも、いつもより笑みを深くして、
「心に触れられて、うれしかった、からかな?」
 だから、どうして。


02


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