ヤクシマ三丁目

オリジナル小説を公開しています。声劇台本の告知、小説化なんかも。同人誌にしてコミティアとか、二次創作でコミケに出たり。

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-開始- 火の緋色 02 

 一人、二階にある自室に篭もっていると、家にチャイムの音が鳴り響いた。
 今日は、夕方まで私以外に家人はいない。一階まで降りてドアを開けると、そこに河図島が立っていた。
「やっ、こんにちは」
 随分と軽い挨拶だなと思う。まさかの来襲を果たした人物の第一声とは、到底思えなかった。
「今日さ、あんまりにも暑いからってアイスと飲み物を買ったんだけど、よく考えたら買い過ぎちゃってて。通り道だったし、お裾分けと、避暑に」
 はい、これ、といってスーパーの袋を渡される。中を見てみると、確かにアイスやらジュースがごちゃっと詰まっていた。
「とりあえず、冷蔵庫と冷凍庫に入れちゃおう。食べる分は、その時により分けておこうね」
 来客用のスリッパを履いて、私の手から袋を取ると、家の奥へと進んでいく。
 なんというか、家人なのに主導権を取られてしまって、何も言うことがない。
 ふてぶてしいと言えば良いのだろうか。でも、それは違う気がする。
「そうだ、明日の早朝清掃なんだけど、藤花が変わってくれないか、だって。多分、夕方までには連絡があると思うよ」
「はぁ? あいつ、今日じゃないと予定が空いてないんです、とか言って、私と無理矢理に変わったくせに」
「なんでもさ、先輩に協力したお礼ってのがあるらしいよ。なんて言ってたかな、イセまで行ってくるとか、だったかな」
「イセ!? あいつ、なんだってそんな高級避暑地に行けるんだよ」
「だから、多分だけど先輩って人が別荘を持ってる人とか……藤花の人脈だったら、ありえなくはないよ」
 スーパーの袋から、品物を全てテーブルに広げていく。
 アイスとジュースがそれぞれ五個以上あるだろうか。確かに、三人家族のこいつにしては買いすぎだ。
 なんというか、深読みするのは、この状況だったら悪くないよな。
「どれ食べる? それとも、飲み物にしておく?」
「折角だし、アイス貰うよ。こいつがいい」
 唯一のチョコバーに手を伸ばすと、やっぱりねという顔をした河図島が、カップのバニラアイスを端に避けているところだった。
 嫌だなぁ、まだ知り合って三ヶ月も経ってない、こいつには全部判られてる気がする。
「これでよし……どこで食べようか」
「部屋、上がっていきな。冷房かけてるからさ、過ごしやすいぜ」
 河図島は一つうなずいて、食器棚からスプーンを一つ取る。そこまで把握されてるとは。


 河図島と逢ったのは、四月の入学式だったか。
 私が唯一、正確に読めなかった名字をしている奴、というだけだったが、確かにそこから接点が出来上がった。
 以来、朝の登校も途中からは一緒だ。昼食も中庭で一緒に食べる事が多い。帰りも、二人して部活に参加していないせいで、一緒になることが多かった。
 別に河図島に何か特別がある訳じゃない。遠くから見ているだけなら、平凡な奴としか映らないだろう。
 でも、少しでも近づいてみれば判る。この、こいつが持っている年齢に相応しくないやわらかさ、のような物は、代え難い。そう、思うようになっていた。
「それで、藤花の奴が、言ったわけだよ、そんな物は要りません! って……どうかした?」
「へっ? あっ、いやいや、なんでもない」
 相づちを打たなくなった私に気づいて、河図島がこちらの表情を窺うように、下からのぞき込んでいる。
 イスに座っている私と、足を崩して床にクッションを引いて座っている河図島の高低差を考えれば仕方ないのだが、いや、しかしその表情は――
「なっ、なぁ! この間の駅の事件、覚えてるか」
 強引に話を切り替えてみる。普通なら不自然な行為も、しかし、河図島は気づいていようがいまいが、自然な佇まいで話を切り替えていく。
「駅の事件って、自殺者が出たって奴かい?」
「そうそう、その事件のことだ」

 珍しく、この街で老衰や病死以外の死者が出てしまった。
 不幸にも、我が町に止まることは金輪際無いだろう快速特急に、飛び込んでしまった者がいたのだ。
 七月の末日、人が大勢乗っている午前中のラッシュ時に起きた事件は、二時間の運行休止という事態を引き起こしたため、地方紙の一面を飾ることになってしまった。
 だからどうという事はなく、自殺という事で片付いたこの話は、膨らみようがない。事件でないのなら、後はお悔やみ申し上げるだけなのだ。
 話の反らし先としては、まことに失策。失敗したなぁ、なんて思っていると、しかし河図島は表情をやや堅くする。
「もしかして、藤花の奴が言い触らしてる噂のことかい?」
「噂? ……あっ、あぁあぁ、そうだぜそれそれ!」
 ウソだ。まったく判っていない。
「それなら、確かに不思議ではあるけれど、状況が自殺以外に考えられないって事で、一応の話は済んでるんだ」
 だから、河図島の話す事は、全てにおいて新鮮さがあり、また、不可解さもよく分かった。

「実はね、藤花が言うにはホームの監視ビデオがあって、それに事件当時の映像が残っていたらしいんだ」
 駅という不特定多数が集まる場所故に避けられないやっかいごと。正しく判断するために、鉄道会社も必死なんだろう。
 その中の一つとしてホームの監視カメラがあるが、そこに、今まさに飛び出そうとしている自殺者の姿が、
「至って普通の風景で、不自然な箇所が一つとしてないんだ。自殺してしまったと思われる彼はね、電車が来る直前まで、新聞を読んで待っていたんだ」
「別に不思議じゃない。新聞読んで待ってる奴なんて、ごまんといるだろう」
「いや、今回のケースには当てはまらないんだよ。だって、彼はこれから自殺しようと、通過する電車の前へ一歩を踏み出そうという直前にいるんだよ?」
 だとしたら、彼の本当の動きは、
「普通、電車が来ているか気にしたり、落ち着かなくてフラフラと歩いたりするものらしいんだよ。これから自分の世界を消してしまおうという未知の体験へと躍り出るわけだから、緊張したりして、落ち着かない様子になるのが自然だと、思う」
「でもそいつは、直前まで新聞を読んでいた? 歩き回ったり、キョロキョロ辺りを見渡したりもせず?」
「うん。もしかしたら、自殺するんだという緊張から堅くなっているだけなのかもしれないけれど、それにしては、落ち着きすぎてると、思った」
 そいつは確かにおかしい話だ。もしかしたら、私たちの方が「直前の人間の行動は、こうである」と枠にはめているだけなのかもしれないが。
「しかし、随分珍しいね」
「ん? 何がだい?」
「君は動機を気にするタイプだろう? それがまぁ、どうして別場所に興味を示したのかなってね」
 良くある話だ。テレビをつけてみればいい、機械の箱から出てくる光の情報は、誰もが動機を気にしているということを如実に語っていた。
 目の前のホームズも、結構それに近い方向から、世の中を眺めている気がする。
「かもね。実行直前の心理を気にしているのは、うん、いつもの僕からしたらおかしいのかも」
「だろう? お前は、発端、最初、根っこの部分が気になる奴だったのにさ」
「うん、だから、ね。あのビデオに映っているだろう瞬間が、始まりだったとは思わない?」
「はい?」
 どういう事だ? 自殺した奴の、そういう行為にでる動機が、自殺の直前だったって?
「たとえば、だよ。彼、直前まで死ぬ気なんか……ホームから足を踏み外した瞬間でさえも、死ぬ気はなかったかもしれないよ」


 01
 03


 
 第一話「開始」を公開しました。

 パイロット版というか、どういうキャラなのか作者が把握するための01とは大きく変わって、なにやら夏で不可解な事件で、アイスで、親友の家に突撃でと、まぁ、色々。

 キャラが喋るままにまかせ、この不可思議な事件をどうやって観察していくのか、楽しみながら書いていきたいです。

 ただ、相変わらず考えている事を丸々出すだけみたいな書き方は、どうにかしたいなぁ……


 

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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